環境適合型超音速推進システムの研究開発(ESPRプロジェクト) その1
航空エンジンの燃料微粒化ノズルの分野では、空港近傍の大気汚染防止の観点から離着陸時における国際的排出基準の制定が議論され始めた1980年頃から、それまでの延長線上にはない新しい燃料微粒化・混合技術の開発が本格化しました。そして、コンコルド(1975-2003)に代わる次世代超音速機の開発機運の高まりに伴い、地球大気だけでなく成層圏オゾン層に影響を与える窒素酸化物NOxの生成を抑制するポテンシャルが最も高い希薄予混合燃焼についての研究開発が米国、EUおよび日本で競って進められました。
我が国では1999~2004年度にわたり、国内および海外の航空エンジンメーカが参加して「環境適合型超音速推進システムの研究開発」(ESPRプロジェクト、英語でのプロジェクト名Environmentally Compatible Supersonic Propulsion Research)」が進められました。そこで、写真に示すメインバーナプレミキサ(燃料の微粒化と燃料液滴・蒸気と空気との混合を担う)が開発されました。巡行時のNOx排出を燃料1kgあたり5g未満とすることが目標として掲げられていましたが、それを世界で最初に環状燃焼器試験レベルで達成することに成功できたのは、まさにこの部品によるものといえます
なお、このプロジェクトに先立ち、1989~1998年度には巡航速度マッハ5級までの超/極超音速輸送機(SST/HST)用推進システム(エンジン)の基盤技術の確立を目指し、「超音速機用推進システムの研究開発」(HYPRプロジェクト)が推進されました。共に、旧通産省工業技術院の産業科学技術研究開発制度に基づき、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託を受け国内外の航空エンジン企業が関連国立研究機関の協力を得て実施されました。
当時、わが国の経済は絶好調で「Japan as No.1」と言われている時代で、貿易黒字額は500~1100億USドルにも上り、日米貿易摩擦に配慮する意味もあって、研究開発費を全額日本が負担するという異例の計らいがされたのです。
(独)航空宇宙研究開発機構においてクリーン燃焼器技術の開発指揮をとられた林茂氏から開発にかかわる興味深い話を伺うことができ、写真のメイン・バーナー・ミキサーと共に、実験データや写真を提供して頂きましたので、成功の裏に何があったのかなど解説していきたいと思います。(つづく)