環境適合型超音速推進システムの研究開発(ESPRプロジェクト) その2
左上の図はESPR エンジンの断面を示しています。低バイパス比ターボジェットエンジンと大きな可変ノズルがSSTエンジンの特徴を表しています。このエンジン4機で300人乗りのSSTを巡行マッハ数2.2で5500㎞飛行します。主要なエンジン作動条件における燃焼器空気温度、圧力、空燃比、出口ガス温度が表に示されています。圧力は離陸時に最大になりますが、燃焼器入口空気温度および出口ガス温度は、離陸時に最高になる亜音速機用エンジンと異なり巡行時に最高になります。出口ガス温度1925Kは、当時期待されたタービン材料の耐熱温度の上限から決められました。
燃焼器は、右上の断面図が示すようにダブルドーム形で、外周にメイン燃焼領域が、内周にパイロット燃焼領域が配置されています。メインバーナは、希薄予混合予蒸発燃焼のためにプレミキサーを備え、その入り口部で燃料が微粒化され、流入する空気中に分散された燃料は蒸発し、均質度の高い予混合気として燃焼領域に噴射されます。パイロットバーナには気流微粒化ノズルが装着されています。この燃焼器は、ロールスロイス社の環状燃焼器試験設備で試験され、目標の性能が確認されました。
希薄予混合燃焼は、振動燃焼を起こしやすいことが知られており、事実、RR社は、提案していた希薄予混合燃焼方式のメインバーナの試験において、振動燃焼により燃焼試験設備に重大な損傷を起こした苦い経験をしていました。そのため、航空宇宙技術研究所の試験設備での試験では、逆火、プレミキサー内での自発点火は起きず、燃焼振動も許容範囲であることが確認されていましたが、同社がケンブリッジ大学と共同開発したというレゾネータ(ヘルムホルツの共鳴器)の設置を条件に試験の実施が許諾されました。しかし、圧力振動の強さは許容範囲であったため、レゾネータの出番はなかったです。振動燃焼が起きたとき、彼らの減衰装置が本当に有効に作用したのか、知りたかったですが。
次回は、なぜこのプレミサーでは逆火が起きなかったのか、そのカギを探る研究について書こうと思います。(つづく)